世界遺産登録5周年、京都の造園屋、岩手県に行く。毛越寺(もうつうじ)の修復工事
2016.07.04
今年6月、岩手県平泉町の金色堂で有名な中尊寺周辺の寺院群が、世界遺産に登録されてから5周年を迎えました。
この6月から7月にかけて、平泉町では記念行事が各地で行われています。
世界遺産登録前に起こった、東日本大震災により平泉町にある毛越寺さんという寺院の庭園が被害を受け、その修復工事に携わらせて頂く機会がありました。
その時のことについて、今回は書かせていただきたいと思います。
毛越寺とは、奥州藤原氏が築いた、平安時代の浄土思想を色濃く残す数少ない庭園として、国の特別史跡、特別名勝(文化財庭園)に指定されています。
他にも、平安時代の浄土思想を反映した庭園としては、京都宇治の平等院が有名ですね。
ただ、毛越寺の庭園はそういった肩書き(?)には関係なく、心が洗われるような本当に美しい庭園です。
震災で最も被害を受けたのは、庭園のシンボル的な存在である、池の中に立つ立石でした。
上記写真中央の立石です。
震災の影響で、高さ約2.5mの立石は30㎝ほど傾いていました。
通常、庭に置かれている石は、地上に見える部分は、その石の高さの3分の2程度で、3分の1は地中に埋まっています。
それによって、石は固定されています。
しかし、毛越寺の立石は、その高さの10分の1程度、30㎝ほどしか地中に埋まっていませんでした。
しかも、建立当時から約25度傾いた状態で立てられており、約4トンもの自重を約800年もの間、保っていたというのです!
その技術の高さには脱帽です。
石の傾きを直すことくらい簡単でしょ、と思われるかもしれませんが、これが意外と大変なんです。
修復にあたっては、池の中なので重機を使えませんし、文化財なので、コンクリートで固めることもできません。
下記の写真のように、人力で修復を行うことになりました。
これには、お寺さんの並々ならぬ努力、ご指導いただいた先生や行政の方々のご協力、関係者が知恵を絞って、取り組んだ結果、修復を成し遂げることができました。
私共は、数多くの庭園の修復を行ってきましたが、今回の修復工事は、震災後の復興のひかりとなるような強い思いが、関係者をつつみ、私共にとっても大変想いの深い仕事になりました。
微力ながら、このような意義深い事業に携わらせていただいたご縁に、大変感謝しております。
当店で携わったこととは関係なく、心から美しいと思える庭園で、個人的にはおおらか、かつ静寂を感じます。
もし、お近くに行く機会があれば、ぜひ毛越寺さんを拝観されることをおすすめいたします。
毛越寺は、平泉駅から徒歩約10分、中尊寺からも車で5分程度です。
ずいぶん前のことになってしまいましたが、その修復工事について、雑誌に取り上げていただきました。
出典『レクサスマガジン2012年3月号』
出典:平泉町作成のパンフレット(作成いただきありがとうございます!)